『森の暮らしの記憶』

taishiho2007-02-27

マーロン クエリナド 絵・文
清水 靖子 文・英訳
定価 1,575 円(本体 1,500 円 + 税5%)
A4 判 / 40 ページ
1998 年 8 月 1 日 発行


これは、僕が9年前に本屋さんで手に取ってから忘れられない絵本です。
それはパプアニューギニアの豊かな天国のような暮らしのお話しです。
でもそれは悲しいことに、もう過去になってしまったお話しなのです。
「僕たちの森が伐られてしまったんだよ!」
「遠いところからきた日本の紙の会社によって。」

「森の暮らしの記憶」
日本や世界の企業がパプアニューギニア熱帯雨林を破壊した。
その森の暮らしの悲しい記憶が絵本になりました。
森の喪失による、生態系と気象の「砂漠化」がおこっています。
森を失った地域の「砂漠化」が、異常気象への誘因とも、引き金ともなり
広範囲の干ばつとなり、さらに異常気象がその「砂漠化」に拍車をかけてきました。
全・英訳付。再生紙使用絵本。


[著者紹介]
絵・文 Marlon Kuelinad (マーロン クエリナド)
1960年、パプアニューギニアのマダン州ゴゴール渓谷のベリン村に生まれる。
1973年、マーロン13歳の時に日本の紙の会社がゴゴール渓谷の森を伐り始める。
1979年、ゴロカ・テクニカル・カジッジ卒業。
1983年、パプアニューギニア国立美術学校でグラフィックデザインの学位を取得。
1985年、野間児童絵本原画コンクール賞受賞。
    教育省でのイラストレーターの仕事を経て同省テレビプロデューサーに。
1992年、ソニーICDビデオ・コンテストにグランプリ受賞、来日。
1996年、東京銀座で個展・キャンペーン開催
    (パプアニューギニアソロモン諸島の森を守る会主催)
現在、首都ポートモレスビー在住。
主な絵本『キコと愛犬ベイク』(蝸牛社)
『森の暮らしの記憶』(自由国民社
「Can You Find Me ? 」の中の“タロイモ収穫祭”(ユネスコアジア文化センター)


パプアニューギニアの森を守ろう」

マーロン・クエリナドの言葉

(本書より引用)

僕は日本を訪問する機会があって大都会から田舎まで沢山の旅をした。

東京から北は釧路まで訪問した。その旅で僕は日本には森がいっぱいあ

ることを知った。日本は、その国土の70%が森に覆われているにもかか

わらず、パプアニューギニアのような熱帯雨林を伐採しつづけてきたんだ

よ。いったいなぜ日本は自分たちの森を保存しておいて、僕たちの森と

環境を破壊してきたんだろうか? 僕は理解に苦しむ。パプアニューギニ

アでの伐採は、私たち住民を苦しみのどん底に追い込んできたんだよ。

それだけじゃない。祖先からずっと住民の暮らしを支えてきた熱帯雨林

生きものたちにも苦しみを背負わせたんだ。


私たちの森を奪わないでほしい。搾取しないでほしい。

私たちの生命そのものである森を殺さないでください。

あなたたちの紙や建材の原料を得るために私たちのところに来ないでください。

そのうえに私たちの大地にユーカリなどの木を植えることすら止めてほしい。

それは私たちの大地を殺し、地元の木が育つのを殺してしまうんだ。

日本はもうこういうことを止めるべきだと僕は願ってやまない。


ゴゴール渓谷では日本のJANT社が私たちの熱帯雨林皆伐する前は、

森は私たちの”母”だったんだよ。森が私たちの生命全部を支えていてくれ

たんだ。森は食べものや、薬や、清らかな水、澄んだ空気を与えてくれた。

森は多くの雨を降らせてくれた。川岸から溢れた水は耕すのに肥沃な土壌

をつくった。ゴゴール渓谷はあらゆるものが見事に育つ大地だった。何の

問題もなかったんだ。私たちの熱帯雨林は私たちや生きものたちを守って

くれていた住まいだった。何千種という熱帯の鳥たち、ワラビやカソワリ(火

食い鳥)、クスクス、何千種もの爬虫類と何百万とも知れぬ種類の虫たちの

住処だった。でも森が皆伐されてからは、私たちの大地は完全に砂漠に、

生命のない土地になってしまった。本当のことをいえば、僕は心の中にたと

えようもない痛みを抱いている。それは大きな傷、癒すことができない心の

中の潰瘍なんだ。


とりかえしのつかない大きな喪失を僕は生涯担っていく。僕とゴゴール渓谷

の人々は、神から与えられた大自然の遺産、熱帯雨林を完全に失ってしま

った。でもこの痛みの中で、僕はひとつの夢を抱いている。大きな夢を。

僕の小さなやりかたで、森を回復させようという夢を。僕はみんなに教えてい

る。会う人ごとに、話すたびに教える。よその国の人にあなたの森を奪われ

ないように森を守るんだよって。そうすれば、その人が僕みたいに苦しまな

くてもすむからね。学校の子どもたちに話す。また森の中の生命と暮らしに

ついて、子どもたちが楽しめるようなお話を書いている。故郷の村のひとた

ちにも話す。先祖伝来の地元の樹種を植えるように励ます。


僕はこうした活動をこれからも、ずっとつづけてゆく。僕にはもうひとつの計画

がある。ほんの小さな、わずかばかり残っている僕の森に、小さな小屋を建て

たい。パプアニューギニアや世界の人々、日本の人々もそこに招いてね。そ

の人々にゴゴール渓谷のいろんな種類の太古からの樹を見せたい。薬の樹

や植物、食べ物の樹などなど。そして僕は素晴らしかった森の記憶を皆に語

るんだ。森を守るこうした目的のために、僕は森の記憶の絵を書きつづける。

パプアニューギニアの森と世界の森を未来の世代のために皆で守ろうよ。

未来の世代が私たちから受け継いだ遺産を誇ることができるように・・・・・・。