「赤ひげ」 [本]「黒澤明と赤ひげ」都築政昭著

taishiho2006-03-21


 

監督 黒澤明 出演 三船敏郎加山雄三、他

うつくしい狂女がいる  夫を刺した貧しい女がいる
再会に泣く悲恋の女がいる  遊里から来た少女もいる
哀れな人々を導き 若き医徒に 偉大なる愛と 人間性を自覚させて行く 赤ひげという男
これは宝石のように美しく そして心に光る挿話をちりばめた 
江戸 小石川養生所の 愛と感動のものがたり

○静かに、優しく、力強く、そして激しく「保本登のテーマ」が流れる。
この曲を聴くと、これから起こるさまざまなドラマが想い浮かび胸が熱くなる。
テーマ音楽の背景に物売りの声が、遠く、近く聞こえる。甘酒屋、ざる屋、いかけ屋、ラオ屋、すす竹屋、桶屋、竹屋、しじみ売り、いわし売り、せった直し、とぎ屋・・・。

長崎帰りの加山雄三演ずる青年医師保本登が養生所の門を潜ってゆく。
エゴイストで軽薄な男、津川が登と映画の観客を療養所の中へと案内する。
山崎努渡辺篤、左ト全らが演ずる病人が話をしている。みんな長屋の仲間たちなのだ。
賄いの活気のあるおばさんたちも湯気の中で忙しそうに食事の支度をしている。
津川「臭くて蒙昧な貧民ばかりだし、給料は最低だし、おまけに昼夜のべつなく赤ひげにこき使われているんですからね」 
赤ひげはするどい眼つきできめつけるように言った。
「お前は今日から見習いとしてここに詰める」
登は全く不服だった。幕府の御番医になるつもりで三年も長崎へ遊学して、江戸へ帰ればお目見得医の席が与えられる筈であった。
登は禁じられることを全てやることで怒りをぶちまけた。

養生所へ入れられたことが狡猾に仕組まれた罠だと思い込んでいた登が、やがて御目見得医になることを断り養生所へ残る決心をするようになるまでの数々の珠玉のドラマは圧巻。


「赤ひげ」は青二才が成長してゆくという点で一作目の「姿三四郎」と共通していますが、
それは、映画という一本の作品に仕上げるための手段だと思うのです。
山本周五郎の原作「赤ひげ診療譚」は八つの短編を羅列しているだけです。)
羅生門」も芥川龍之介の「藪の中」を羅生門での会話という手段をとって作りました。
この辺が黒澤のうまいところだと思うのです。
黒澤は江戸庶民の生活を描いた作家、山本周五郎が大好きでした。
黒澤とは全く違うタイプだと思うのですが「赤ひげ」は周五郎の世界に最も近づけたと思います。今までこれほどまで江戸庶民を描けた映画があったでしょうか。
映画館で感動した作品をビデオで観てがっかりすることは多いですが、
この作品だけは、何回観ても小さな発見があり観れば観るほど好きになります。