『銀嶺の果て』1947年

taishiho2008-11-26

● スタッフ      ●キャスト(役名)
演出 谷口千吉     志村喬 (野尻)
製作 田中友幸     三船敏郎 (江島)
脚本 黒澤明      小杉義男 (高杉)
撮影 瀬川順一     河野秋武 (本田)
音楽 伊福部昭     若山セツ子 (春坊)
美術 川島泰三     高堂国典  (スキー小屋の爺)

録画されたものをringoさんにお借りしました。
僕が生まれる8年前、戦争が終わって間もない頃の作品です。
黒澤明の本などで知って、ずっと気になっていましたが
beatleさんのおっしゃる通り、スリルがありとても面白い映画でした。
山岳アクションといえば「クリフハンガー」や「アイガー・サンクション
などを思い浮かべますが、僕はこの作品の方が好きです。
当初のタイトルは『山小屋の三悪人』だったそうで
これは黒澤明の『隠し砦の三悪人』とそっくりで笑ってしまいます。
三悪人とはいっても、『懐かしきケンタッキーの我が家』を聴いて涙ぐむ野尻は
とても悪人とは思えない人柄に見えました。どうして強盗なんかしたのかな?
なんとか辿り着いたスキー小屋にいたのはとても雰囲気のある老人と陽気な孫娘。
若山セツ子演じる孫娘は生き生きとして『生きる』の小田切みきを思い出します。
この老人はどこかで見たことがあると思ったら『七人の侍』のあの長老ではありませんか。
赤塚不二夫のベシというキャラクターができるきっかけにもなりました。)
長老がいて三船がいて志村がいたらもう『七人の侍』になってしまいますね。
なるほど黒澤明の『酔いどれ天使』『隠し砦の三悪人』『七人の侍』などのルーツは
もう既に、『銀嶺の果て』の中に凝縮されていたのだなと思ってしまいました。
いい映画は、いい映画の種を蒔くのかもしれません。
三船敏郎の江島は『酔いどれ天使』同様、やはり強烈な印象で一番目立っていましたが
雪山を降りる途中、野尻と争ってあまりにもあっけなく消えてしまいました。
ターミネーター2』的な感覚に慣れてしまうとこの悪役江島はもっとしつこく使いたくなります。
でもそれは僕の感覚が今の映画を観ていて、かなり毒されているからなのかもしれません。
ringoさん、大変貴重な素晴らしい作品を貸して頂いてありがとうございました。
※この映画についてringoさんとbeatleさんとtougyouさんのブログにも詳しく書かれています。

『銀嶺の果て』
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

『銀嶺の果て』は谷口千吉の第1回監督作品である。脚本は谷口の助監督以来の盟友である黒澤明が書いている後に世界的スターとなる三船敏郎のデビュー作品である。

また、『ゴジラ』の音楽で有名な伊福部昭が初めて映画音楽を手がけた作品である。本作のメインタイトルとして使用された曲は『空の大怪獣ラドン』で「ラドン追撃せよ」の曲として使用されている。
[あらすじ]
野尻、江島、高杉の3人は銀行強盗を働き、冬の北アルプスに逃げ込む。しかし、捜索隊が追いかける中、高杉は雪崩に巻き込まれて姿を消してしまう。運良く助かった二人はスキー小屋に辿り着くが、そこには老人と、その孫娘の春坊、登山家の本田がいた。次第に野尻は彼らの温かな人情に心を動かされるが、世間との接触を極度に恐れた江島は…。
[音楽]
音楽を担当した作曲家の伊福部昭は、一見明るい場面に物悲しい音楽を付けた。追われる身である主人公が女性とスキーを楽しむというこの映画の中で唯一明るい場面なのだが、伊福部はイングリッシュホルン一本のみで悲しげな旋律をつけ、主人公の宿命を描いた。監督の谷口は『スケーターズ・ワルツ』のような明るい音楽を想定していたので対立した。その日の録音を取りやめ、演奏者に帰ってもらった後、数時間議論を続けたという。このとき仲裁をしたのが脚本の黒澤であった。

黒澤の仲裁もあって曲はそのまま採用されたが、断片的な場面ごとではなく作品全体を見渡した結果としての主人公の心情を表した音楽を意図した事が認められ、最終的には音楽への真摯な態度が製作側からも評価された。それ以降、映画音楽作曲家としての伊福部の快進撃が始まるのである。

春坊を演じた若山セツ子は谷口監督の二度目の妻となりましたが離婚。監督はその後、八千草薫と再婚し95歳で亡くなるまで仲睦まじかったそうです。